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「百ます計算」が支持される知識偏重の教育観

カンファレンスの基調講演は、百ます計算で有名な陰山英男さん。陰山さんの視点による学力の分析や、百ます計算をはじめとした教育実践の紹介など、さすが話慣れているなぁといった感じの退屈しない講演でした。

話の中に「百ます計算の手法が独り歩きして、それをすれば有名大学に入れると短絡的に思い込む親がいる」というものが出てきました。学校教員でも親でもない私ですら知っているくらい、多方面に宣伝されている百ます計算です。我が子のより良い進学を切望する親にとっては、福音足りえるものなのでしょう。

百ます計算は、四則演算の基礎力をつけるためのトレーニングと言われています。ですから単純には、四則演算の能力だけを身に付けるものと捉えられるのですが、陰山さんの他の実戦例の紹介を聞いていると、全ての学力の基礎作りにはトレーニングが効果的だ、という考え方があると強く感じました。子どもたちに英文や古文を大声で暗唱させたり、教師の合図で子どもたちの動きを統制したり、それはその行為自体に意味があるというより、その行為を繰り返すことで感覚を鍛えることを目的としているものなのでしょう。劇団の稽古でも似たようなことをしますが、まさにトレーニングだと感じました。

子どもたちの様子をビデオで見てはっきり実感したのですが、私はこのトレーニングが正直好きになれません。指示を出す教師の顔はロボットみたいですし、刺激に反応する子どもは従順すぎて気持ちが悪いと感じました。あれは子どもたちって楽しいんでしょうか。やらされる側は、やっていることの意味は理解できないでしょうから、学校では先生の言うことを聞こうという気持ちで従っているのかもしれません。小さい頃から刷り込ませないとうまく実施できないだろうなぁと思いました。

トレーニング手法が多少奇妙であっても、その先には輝かしい未来が待っている、だから取り組ませよう。そういう考えは一概に否定しなくてもよいと思いますが、私としてはそれは最小限にしたいですね。子どもにとっても大人にとっても、今この瞬間も大切な人生なんですから。学校が奇妙な訓練所になってしまうのはどうも。トレーニングで開発する能力を、なんとか自然な営みの中で育てたいと思いました。

また、百ます計算が支持されるのは、「知識があるかが人の優劣を決めるいちばん大きな基準」という人間観を持っている人が相変わらず多いから、という気がしました。この程度の漢字も書けないなんて、そんな言葉も知らないなんて、そんなこと常識でしょうに、といった声。逆に、よく知ってるのねーさすが東大卒、さすが頭のいい人は会話も知的だ、といった声。

知識は詰め込めばある程度は身に付くもののように思います。知識を詰め込む場所が学校であり、学校で詰め込まれる知識が人の優劣を決めるのだとしたら、学校の詰め込み教育に適応しやすい子どもを育てるのが早道。百ます計算のトレーニングが東大への近道と捉えられる所以は、結局は学校社会の優等生が素晴らしいという、大人の持つ人間観から来るのでしょう。

百ます計算に代表されるトレーニングだけでは、学校工場の製品の質は高められても、規格外のクリエイティブは育たないでしょう。私は、いわゆる頭でっかちの優等生より、クリエイティブかつ柔軟に物事を捉えられる人に会いたいです。入試が然り、偏差値が然り、学力競争が然り、知識偏重の人間観が教育観を生み、それが今の社会問題を生んだというのは言い過ぎでしょうか。

陰山さんの話で残念だったのは、自由な学びとトレーニングは教育の両輪であるとしつつも、知識を詰め込むためのトレーニングの有効性を説くだけで、その先にある学びには触れられなかったことです。そのネタを持ち合わせていないのか、それとも本題でなかったので割愛したのか、それはわかりませんが。

続くシンポジウムでは、トレーニング派と自由な学びの重要性を説くパネリストを交えて話が展開しましたが、陰山さんとは最後まで話がかみ合わず終わりました。いつも思うのですが、教育について議論するには、教育観、もとい教育で育むべき人間の姿を明確にすべきだと思うのです。どんな人を育てるのかがオープンにならない議論で、実践の有効性を語ったところで意義は薄いと思いました。司会の若林さんは必死に話を関連付けていましたが、やはり運営側でもう少しセッティングできなかったのかと思います。

2006PCカンファレンス関連 | 2006-08-18

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